三月二十八日 花なき野


謎かけでもなんでもなく
出発するとき人は既に到着してゐる
ほとんどの冒険は目的地が定められてをり
たんにそれが本人に意識されないだけで
未知の領域の探求者に成れて
道なき道を切りひらく先駆者の難儀と高揚を
味はふことができる
行き先は気づかれてゐないけれども
それはあり
それこそがあるのである
神ならぬ人の身でしかし
どのやうにしたらその知へと到ることができるだらうか
知られてゐないものをどうやって知り得るだらうか
たぶん人はないものを知ることはできない
人が知り得るのはあるものでしかない
そしてあるものは
それがある限り
知られ得ない
このやうな隷属状態から人は
いかなる道を通って自由へと至るか
これが問題だ
問題は誠實にやさしい手で扱はれねばならない
破壊槌を握りしめる拳をゆるめて
ひとまづ耳をかたむけるのがふさはしからう
内なる声に従ひ持ち物を捨て
社会的桎梏から逃れ旅に出た人々は
自由なはずの旅の道中で
胸に重くのしかかる違和感を抱いて
それぞれの仕方で対処してきた
解決してしまってきた
無理からぬことだ
わたしたちは今
途中に果てた旅人達のしかばねを踏み越えて
花なき荒れ野に立たねばならない

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