四月十日 幸福の重さ
そこいらを通行する人間をひとりつかまへてみよう
彼は幸福を求めてゐるやうだ
彼に彼の望む幸福とやらを与へてみよう
けげんな顔して彼はとまどふ
そして幸福にしばらく目を留め
そそくさとその場から退散する
手付かずの幸福を道端に置き残したまま
親切心から彼の忘れた幸福を届けてやらう
幸福を手に彼を追ひかけ
これはあなたのものです
あなたが所有してよいのですよ
さう声をかけると彼は振り向くが
顔は真っ青で恐怖に引きつってゐる
知ってゐますよ
これはあなたのずっと追ひ求めてゐたもので
あなたが何よりも心から慾してゐるものです
それを今あなたは手にすることができます
祝福いたします
さあどうぞ
おしあはせに
すると彼は手を伸ばすが途中で固まり動かない
手をとって幸福をのせてやると
意識を失ひ倒れてしまった
背中いっぱいの不幸を背負ってゐた力持ちでも
掌上のひとかたまりの幸福にはたへられない
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