四月七日 海


同じ海なのに
砂浜から眺める海はきらめいて
投げ出されて溺れる海は
解釈をゆるさぬ暴君で
どうあがいても波をかぶる個人は無力で
何も語らず波を運ぶ海は不気味で
圧倒的で隔絶してゐて
その中で人は何もできず
冷たい水が体温を奪ってゆくのに
どうすることもできなくて
小さな波に逆らって泳ぐことはできても
少し大きな波が来ればたやすく流される
おそろしいのは海に敵意がないことで
あまりに巨大ななにものかなので
人間の存在に気がついてをらず
人とちりの区別もついてゐないのだらう
もしかしたら海には意思があるのかもしれないが
人間が眼中に入ってゐないことはうかがへる
支配するつもりもない大きなものに
人の命運は支配されいとも簡単に転がされる
偶然にも木ぎれにしがみつけた人はさいはひだ
小舟にひろはれた者もさいはひだ
立派な救助船にすくはれた者もさいはひだ
しかし海にとっては
生身の人も木片も小舟も大型船もちりあくたも
まったく等しい存在であって
ちりをゆらすのも
人をしづめるのも
舟をのみこむのも
同じく感心の外なのであらう

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