三月二十一日 こころ


もうご存知のこととおもふが
わたしにはお金がない
よはひ四十にして
たくはへもない
あらゆる角度から見て貧乏だ
もしも不測の事態が起こったら
たやすく我が身は破滅するだらう
たぶんきはめて容易に
どうにもならない苦境に追ひこまれるだらう
病気になったら怪我をしたら
想像してみると行きつく先は
目をそむけたくなるほどの
あまりに暗い未来しかない
今わたしが生きてゐられるのは
わたしの力とか意志によるのではなく
たんに運がよいからに過ぎない
わたしにはどうすることもできないものに
わたしの現在はゆだねられてゐる
もっともこれはお金があったとしても同じことではある
お金や知識があればより大きな慮外事に対応できるだけだが
わたしの今のありさまでは
つまりふところが軽いので
ちょっと強い風が吹いただけで飛ばされてしまひさうだ
耐へ得る困難の程度がいちじるしく低いから
少し想像をめぐらせるだけで
すぐに心の安定が崩れ去る
いつも不安で
酒でものんで我を失ふくらゐしか
今自分にできることがない
いやあるだらうと説く賢人達の
部落を足早に過ぎて
緑の丘に立つ
金にしがみつくより
あきらめられたら
胸をしめつける憂悶からも
解放されるだらうか
我執といふ名の桎梏を解かれて
はじめて自由になれるだらうか
すべての価値をひっくり返して
つひに安住の地を見出すだらうか
どうあがいても幸せにはなれないと悟った人間は
どのやうにして最終的には
幸せになるのか
なってしまふのか
酒に濁った目を開いたまま
見つめなければならないのか

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