三月二十七日 パン


一月たった
やはりおもふ
ここはわたしの居るべき場所ではない
今のわたしは難民に似てゐる
財産もない技能もない
たまたま流されてたどりついた
縁もゆかりもない異国の地でことばもわからず
生計のために身を労働力として売る
最低限度の文化的生活を送るためではなく
日々のパンを獲るためだけに

近所のスーパーで
値札とにらめっこしてゐると
おばあさんにたづねられた
これはいくらですか
わたしは値段を見て教へた
こちらはいくらでせうか
すみませんね目が悪くて見えないんです
わたしは袋に入ったパンをよく見て
二百五十円ですよと伝へた
おばあさんは礼を言ひ
わたしはいいえと答へる
パンコーナーでの物色を再開し
迷った末にかごに入れる
百円のドーナツが
たのしみであり最高の
贅沢なのだ
スーパーを出て家に足を向ける
郵便局の前の公園で
子供たちがかけまはり
高らかにうたをうたってゐる
午後のあたたかい日がつつみこむ
こどもとわたしと
そしてきっとあの
おばあさんも

コメント

このブログの人気の投稿

二月二十四日 ねえ・・・

五月二十四日 ぐらたん

六月二十日 のぞみ