二月二十五日 醤油瓶
なにも戦火に身を置く者だけが死を感じるわけではない
単純労働に身をやつす底流層は
日々の作務に追ひたてられ
ものおもふ間もなく
目的を果たすだけの機械と化して
ただひたすらに
意識が低いと怒鳴る上官の命令をたへしのぶ
心に浮かぶ理不尽への反発は
職を失ふ恐怖によっておさへこまれる
明るく楽しい現場の実態は
不安といかりと
やるせなさとあきらめと
絶望感を基底とした
一種の精神病棟なのだ
患者はそこで毎日
死に直面する
この生活は死だし
未来は死だし
現在は自死の誘惑におされつつも
どうにかかうにか抵抗してゐるありさま
労働環境では死はすぐとなりにある
びっくりするくらゐ日常にテーブルの上に
醤油の瓶と並んで
無造作に置かれてゐる
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