二月二十三日 希望


希望が生まれる
薄暗いじめじめした洞窟で倒れ
汚泥にまみれる旅人は
予感にふるへる空気の中
まぶたをあけて
曙光を迎へる


希望が生まれる
あらゆる望みを打ち砕かれ
地にたふれふして
もう起き上がる力もない
だからこれは奇蹟のはずだ
今わたしはひざを立て
自らの力で立ち上がらうとしてゐる
暗闇のとばりをそっと押しのけて
あたたかい光が入ってきたのだ


希望が生まれる
よろこびが生まれる
ひとみに意志が宿る
糸の切れた人形だった体に
力が戻り始める
手を握り感触を確かめる
十分だ
生の困難に立ち向かふ
強さが今やここにある
勇気は指先まであふれ
戦ふ準備はできてゐる


さあいかう
出発だ
たとへ危険な暗夜行だとしても
この光が導いてくれる


希望が生まれる
生まれる
うまれる
むまれる
もう何度目だらう
くり返しくり返し
生まれる
生まれてしまふ
希望が
希望が
産まれる
わたしに夢を見せ
力を与へ
生きる意志をふりおこす
お前
希望よ
愚かなわたしに
これ以上
何をさせようといふのか
希望よ
お前は何なのだ
まぼろしを目にして
虐げられた人は冷静でゐられない
希望よ
お前が
わたしたちの
絶望なのか
希望よ
わたしをもてあそぶ
善良な顔した
ばけものよ


希望よ
わたしはお前がおそろしい
それ以上に
自分がおそろしい
得体の知れないもの
真っ暗闇の中ですら
光を生み出すことのできる
自分といふ物体が
奇妙で不可思議で
その根もとを見つめようとすると
ものが
厳然としたものがあって
自分とはみなせない何かに突き当たりさうで
どうあがいてもどうにもならないものの存在感が
胸に重くのしかかる


希望が産まれる
目を閉じてわたしは
嵐にそなへて身をかたくする



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