三月三日 いでゆの夜


昨日は初めての夜勤だった
星のまたたく下
人々がいこひはじめる中で
職場に急ぐ自分のすがたは
取り残されたやうでなにか
ものがなしい感じがした

年配の同僚が語る
昔は温泉街といへば
流れ者の巣窟だった
行くあてのない根なし草の
最後に流れ着く岸だった
罪を犯した者も稀ではなかった
かうした場所には必ず寮があって
突然現れ雇ってくれと言ひ
主人はわかった働いていけと言ふ
どんな経歴で何をしてきたか
深く尋ねることもなかった
昔はさうだったと
同僚は語った
私は黙念と聞いてゐた
今でも同じだよ
あなたの目の前にゐる者がさうなのだから

しづかな夜だった
かなしみもくるしみも
そして少しのよろこびも
のみ込んで来た宵闇が
ひたりひたりと
音と灯りを包み込む
いでゆの夜は
にぎやかで
騒がしくて
今日もまた
しづかだ


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