二月二十八日 目


見失ひさうになる現実を
つとめて視界にとどめ続ける
生きてある神ならぬ人の身がこれをなすには
特殊な準備が必要だらう
そのままに放っておけば
視野はせばまり歪められ
地獄に薔薇色の天国が現出してしまふ
熟練の舟乗りが嵐を漕ぐやうな
繊細で大胆な技術の上に
おそらくお祈りもしなければならないだらう
烈しい突風が
すべての努力を一瞬で無に返す暴風が
どうか吹きませんやうにと
希望と絶望にはさみこまれて
その間でもがきながら
冷めた目を注ぎつづけねばならない
どちらかと言へば希望より
絶望の方を友として


人間は厳密な存在だ
二つの自然
外なる自然と内なる自然の中にあって
荒れ狂ふ海原に投げ出され
丸太にしがみついて
舵取りをしなければならない


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