三月六日 悪


はるのあらしが去りて
よのあけを迎へる
湖面のごとき
胸の奥には
ひとつ舞台で
全員参加の
舞踊劇が
次から次に
場面をかへて
役者もかへて
進めらる
用意された物語が
巻き物を広げるやうに
展開される
よい役を与へられた者は幸ひだ
彼は誇りよく演じやうと努める
ただし主人公だけで劇は生じない
悪役もあれば
一片の口上もない端役もある
そんな役にかなしくも選ばれた者は
心に不満を抱く
どうしてあいつは主人公で
俺は有象無象なのか
説明を求めて
脚本家に訴へる
いかやうななだめにも応じない
頭のかたい端役者は
爆弾をかかへ
おさへきれずに火がついて
舞台もろとも吹き飛ぶか
たへ忍びて羊のやうにしたがひ
日々舞台に立つ
主人公は演じ
悪役は考へる
この劇は何か
誰が作ったのか
物語はどこへ向かふか
なぜ俺は悪なのか
問ひを胸に抱いて
演じ続ける
おれはいったい
何なのか

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