二月十七日 牢



牢獄のなかで目が覚めた
すえたにほひが鼻をつく
すぐそばにあった男の顔は
ひどくゆがんでいやらしかった
わたしはおもひだす
抜けるやうな青い空
真っ白な入道雲
ふりそそぐ光の海のなかで
おだやかな風に緑の葉がゆれる
この石とほこりと鉄柵しかない監房で
目は見えないものを追ひ求め
薄汚れた壁のすみを
ただひたすらに見つめる
一瞬でもそらしたら
しあはせが崩れて消えてしまふかのやうに
目に映ってゐるのは
自分と同じ
汚く品なくあさましい
囚人たちの
かつては澄んでゐたはずの
狂気と混乱のひとみばかり



会社の借りた
安アパートの一室で目を覚ます
今見た夢をおもひだす
もし本当に囚人であったなら
どんなにかよいだらう
なけなしの尊厳だけ与へられて
今日の強制労働が
わたしを待ってゐる






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