三月十三日 うすい水色のそら


今日はめづらしく朝から晴れてゐた
外に出たときすぐに
自分が川の方に行きたいことがわかった
どうして川に行きたいのかは知らないが
心は体を残してすでに川沿ひを歩いてゐた
重い肉体を運んで
ほそく入りくんだ路地を抜け
小さな白い花の咲く水田に出る
目的地のない散歩は久しぶりで
歩幅はせまく歩調はゆるやかになる
途中地元のをぢさんらしき人に
三回も追ひ抜かれたが
わたしは背中をながめつつ
四度目もあるかなとおもってゐた
絵の具でひいたやうな
うすい水色のそらは
けだるい午後の日ざしを
犬と飼ひ主とわたしにそそぐ
川にそって生えた竹のかげを行く
人の目がなかったから
わたしは自然の一部に見えただらうか
街中でもしこのやうに歩いてゐたら
酔っぱらひか気狂ひか
関はりたくない人物にしか見えないだらう
わたしの明日は仕事といふ名の先約で埋められて
すでにわたしのものではなくなってゐる
わたしはそのことを知ってゐるはず
なのにどうしてこんなに放心してゐられるのだらう
うれひは不安はどこへいった
ここだけ見たらわたしは
まるで自由人のやうだ
結局四度目の邂逅は
果たせなかった
犬を連れたをぢさんもどこかへ消えた
わたしは流れを見つめて
どうして川のそばに来たか
なんとなく理解した
ぬいだ上着とマフラーを腕にかけ
街へと戻る
すれちがったおばあさんが
頭を下げる
わたしはきっと
もしも明日制服に身を包んで
せはしなく動き回る姿を見たら
逆に怒るだらうとおもった

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