三月五日 視界
わたしは自分に何を隠してゐるのか
一時も立ち止まらせないやうに
夢といふ投射機で視界を染める
どうしていつもわたしは何かを追ひかけてゐるのか
追ふのをやめたら何が見えてしまふといふのか
何か映っては不都合なものがあるに違ひない
わたしも事情を知らされないながらも協力して
何かが明晰にあらはれないやうにしてゐる
きっと倒れるまでこの茶番はつづくのだらう
かつては全霊であらがったものだが
今はあらはれさうになるとあらはれる幻を
ほほゑみを浮かべて追ひかけるやうになった
ご苦労様ですと一声かけてやりたいくらゐ
わたしのことお気遣ひ下されていらっしゃるのでせう
奇怪な生きものでございますよね
ねえわたし
ときにさいきん
視界にかかるもやが薄くなったやうな気がするのだけど
気の所為ならよいのですが
透けて見えさうになってる時があるから
注意して下さいね
もっと持続的かつ強力な幻覚を見せて頂かないと
いろいろはがれ落ちてしまひさうです
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