三月二日 れんげ


黄泉の飯を口にしたイザナミは
帰って来られなかった

フードコートの一番安いメニューを注文する
子供連れの婦人の後ろに並ぶ
空は曇って一面灰色
電子音が鳴り響き
ラーメンを受け取り
はしをとり
席につく
隣のテーブルの人はれんげを使ってスープをすすってゐる
れんげを取ろうとカウンターに戻る
しばらくうろうろしてみるが
見当たらない
もう一度ラーメンを食べる人々をよく見ると
れんげといふよりスプーンに近い奇妙な食器だ
なるほどこれか
一つ手にして席に戻り
スープをすくふ
香りは煮干しだが
だしの味は薄い
空腹は最高の調味料ではなかったやうだ
食べ終へて一息つく
空を見上げる
灰色一面
言ひ知れぬ重たさが胸にかかる
これでもう引き返せない
名実ともにわたしは
娑婆の一員となった
どす黒い気分に心が覆はれ
いや
この場末には
灰色の空がよく似合ふ


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