四月二十三日 叶った望み


ちょっと申し訳ないんだけど
わたしは女の子をつかまへて言った
愚痴を聞いてもらっていいかな
ええかまはないわよ
女の子は云った
観葉植物の鉢だとおもって話すといいわ
すまないね
わたしは始めた
忘れかけてゐたのだけれど
わたしはそもそも見たかっただけなんだ
何もかも捨てて
さう能ふる限りの何もかもをだよ
関係も地位も居場所も友人も家族も
そして一番大きなことには知識といふか世界も
捨て得るものはすべて置き去りにして
落ち得る所まで落ちて身ひとつになり
裸の状態になった一個のものが
苦しみしかないやうな中で
次に何をし始めるのか
どんな思想を構築し何の夢を見るのか
そこから何かが生まれるのだとしたら
何かが始まるのだとしたら
そこにはいくばくかの眞實なるものが含まれるのではないか
わたしは期待したんだ
自分を知らないままで動くことに
たへられなかったんだ
自分の知らないままに
自分が動かされてゐるあり方は
まるで奴隷のやうで
尊厳など少しも感じられなかったから
本當のものが少しでもそこに現れるのではないかと
そこから始めればわたしは本來のわたしとして
自由になれるのではないかと
わたしは一息に語って女の子をうかがった
女の子は表情を変へずに言った
おはなしはもう済んだのかしら
いやまだなんだけど
時間もないから
手短にすると
予想してゐたよりこの場所で暮らすことは苦しいから
何かが始まる余裕なんてなくて
ましてや自由なんて遠くて
むしろ単純な不自由に縛られて
かへって遠くなってしまったやうな気がするし
つまり計画通りに進めた所で想定外の事態にあひ
今どうしようかどうにもならないかもってとこなんだ
あら
女の子はたのしげに云った
あなたの予想通りじゃないの
すべてを捨てたかったのでせう
予想も捨てられてこれでほんたうに
あなたの望み通りね

コメント

このブログの人気の投稿

二月二十四日 ねえ・・・

五月二十四日 ぐらたん

六月二十日 のぞみ