四月二十九日 かなった夢


たとへば恋に落ちるとき
客観的な基準に照らして
最も美しいとされる人が選ばれたのだらうか
さうではなく実際には
ああこの人は美しいと
こころふるはせられる瞬間が
訪れたからではないだらうか
どんな人がどんな時にどんな風に感動するか
それこそ神のみぞ知ることにちがひない

たとへば不幸に落ちるとき
客観的な基準に照らして
最も恵まれない状況が選ばれたのだらうか
さうではなく実際には
ああわたしは不幸だと
こころふるはせられる瞬間が
訪れたからではないだらうか
どんな苦境が当人に不幸と捉へられるのか
それこそ神のみぞ知ることに他ならない

わたしには夢があった
忘れもしない
小学校の帰り道
その光景はいまだに脳裏に焼き付いてゐる
談笑して歩く友人達を見て
わたしはこの人たちとはちがふと
はっきり突きつけられた瞬間の
痛みとあせりと不安とを
今でもおもひだすことができる

友人は大臣になりたかったが
わたしは不幸になりたかった
誤解の余地なき命令であり
あらがひやうのない天命であった
わたしは不幸にならなければいけない
そればかりをおもった

そして今わたしは
四十年の年月をかけて
つひに夢をかなへた

わたしは不幸になった
ああ
ああ
まがふかたなく
いまここにゐる
このわたしは
不幸だ
長い道のりだったが
すべてはここに至る岐路だったのだらう
わたしは子供の頃からの夢を実現したのだ
念願がかなふとよろこびに満たされるはずだが
夢をかなへて不幸におちいる場合も
この世にはたしかにあるやうだ

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