「おとづれ」 二 (承前)


毎日の仕事に出かけようと

ドアのノブに手をかけて

いつもするように回そうとしたとき

何かいつもと違うことがおとづれた



彼は遅刻の心配をした

回そうとした手はしかし

回らなかった



彼にはよいものかわるいものかわからなかった

しかし振り切って行くことはできなかった

もちろん仕事はかれにとって大事なものだった

自身のためにも人のためにも彼は働けることに喜びを感じていた



しかし彼は行くのをやめた

どちらかといえば彼はむしろ行きたかった

彼が一日休むことで迷惑をこうむる人たちの顔を思い浮かべた



かれにはどうしてよいのかわからなかった

熱に浮かされた理性が冷めるとともに働き始めた

自分が今何をしているのか

彼はあらためて考えた



とんでもないことだと彼は思った

仕事をさぼってぼんやり立ちぼうけしているなんて

言い訳のしようもない

とうてい許されることではない

急いで出発しようと扉を開けた



光にあふれていた

彼はまぶしさに目を細めた

ふりそそぐ日の光があまりに豊かなので

物ものが全部を受け止めきれずに

あふれてこぼれた輝きが奔流となって

彼の方へ押し寄せてきた



はやる心は落ち着きを取り戻し

少しでも前に出ようともがいていた足は

動くのを忘れた



何だろうこれは何だろう

今日に限って

どうしてこんなものが見えるのだろう



混乱した頭がいたづらに回転していた

それでも彼はなお出発しようとした

自分が仕事を続けなければ悲しむ人たちがいる

彼はわづかに残された力と意志をかき集め

ようやく一歩を踏み出した



それでふと我に返ったときは

光の海のなかだった





つづく





前回の投稿の続きになります。

もう少しだけ続くと思います。


ここまでお読みいただきまして有難うございます。

どこか一部分でも楽しんで頂けましたら幸いです。

ぜひまたあそびにいらっしゃって下さい。


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