ペンのインクについて

以前このブログで触れましたが、今年になってから、左から右へと行を進める、左縦書きという方式に改めました。ひと月ほど試してみて、なんら問題を感じませんので、このまま行こうと思っています。右手でペンを持つ方にはおすすめしたうございます。

今日は少しばかりインクのお話をば。

学生時代にものを書き始めて以来、同じペンを使って来ました。何かのお祝いに頂いたものと記憶していますが、モンブランです。といっても、今店頭で並んでいるものではなく、古いバージョンですが、当時はどこの文房具屋でも置かれていた気がしますので、よく売れた型式だったのではないかと思います。

書いていて思い出しましたが、文房具店ではなく、バッグや財布など、免税品を扱うお店で選んだ記憶があります。一応輸入品ですので、すこし安く買えたからでしょう。通常は試し書きをして自分に合うものを選ぶと思うのですが、きらびやかなショーケースの中からおそるおそる一番安価な品を選択したのは、そういうお店だったからでしょう。

今思うとずいぶんな買い物だったと思います。万年筆を一度も手に持ったことのない人が、書き味を試しもせずに、有名だから大丈夫だろうという無造作な理由で、決めてしまうのですから。失敗しないで済んだのは、幸運と、世の中に巡る少しの善意のおかげと言うべきでしょうか。

もっとも、もしきちんとしたお店で購入していたら、そもそもモンブランを選ばなかった可能性が高うございます。多分ではありますが、プラチナなど、国内産のものを選ぶのではないでしょうか。漢字を含めた日本語の筆記に適したペン先を製造しているメーカーのお品にするのが順当かと思います。

実際、はじめのころは使いづらさに辟易しました。ボトルからインクを吸入するのが手間でしたし、慣れていませんから、手は真っ黒に汚れますし、そもそもの書き心地もよくありませんでした。ペン先がかなり硬いので、融通がきかないというか、細かい漢字など書くには引っかかるというか、しっくりきませんで、結局セーラーのものを自分で買って使っていた時期もありました。

数年は引き出しにしまわれたままになっていたように思います。再び使い始めたのがいつか、きっかけは何だったか、覚えていません。が、様々な万年筆を試してみて、別段不便はないけれども、どこかさびしい気がし始めたのは覚えています。書き心地だけをみれば、頂いたモンブランよりなめらかでよいのはいくらもありました。なのに、どこか満足できない感じが残りました。当時の思い込みが大きうございましたが、言ってみれば、機能性に優れていて品質も安定した工場生産品と、出来にばらつきがあり素晴らしい点もあるが問題点の方がより多い手工芸品の違いであったかと思います。

時代によって社の気質や方針は変わるもので、私の見識では、最近のモンブランが後者であるとはっきり言うことはできませんし、その立場にもありません。

一度ペン先の修理で、銀座のお店に伺ったことがありますが、筆記具における高級ブランドを印象付けずにはおかない店構えで、それ自体は結構なことですが、一使用者としては、少しの違和感を覚えました。書くための優れた道具を売りたいのか、高級ブランド価値を売りたいのか、もちろん前者だとは思いますが、戸惑いを感じてしまいました。たとえ後者であったとしても、芯の部分がきちんと守られていくのであれば、客としては問題はないのです。商売を大きく展開すると色々難しいことも出てくるでしょうし。

それで、インクの話ですが、ずっと古典的なブルーブラックを使っていました。が、数年前から商品の表記が「ブルーブラック」から「ミッドナイトブルー」に変わり、さらに染料インクとなったことで、耐水耐光性もなくなりました。ミッドナイトブルーという商品名が好みな響きではありませんでしたが、他に適当なものがあるでもなく、仕方なしに使い続けていました。

先年引っ越して、書く部屋の環境が変わり、紙を窓辺に放置すると西日が照りつけるようになり、染料インクに不安を感じるようになりました。それで先月、顔料インクでは有名な、プラチナ社のカーボンインクを試してみました。

ペン先に、EFという、一番細いものを使っていますので、インクの出があまりよくなく、かすれや引っかかりを感じることが多かったのですが、その点劇的に改善しました。インクフローがとてもよいので、太いペン先だとかなり出るように想像しますが、細いペン先にはよく合います。色は黒です。濃淡もつきません。面白味はないかもしれません。が、今のところ気に入っています。裏抜けもしません。

当分はこれで行きたいと思います。




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