雨が降ってきたので傘をさそうとおもった
ところが傘はかばんに入っていなかった
家に置き忘れてしまった
このままでは濡れてしまう
わたしは雨宿りのできる軒先を探した
近くに人家はなかったが幸いなことに
大きなけやきの木があったので
広い枝先をかりることにした
肩についた雨滴を払ひ
空模様を確認する
灰色の雨雲が垂れこめて
晴れ間は望めそうもない
一時の宿りにいかほどの意義があろう
わたしはふたたび路上の人となり
散歩を継続することにした
すでにあらかた濡れているので
より打たれた所で大差はないと判断したのだ
問題はめがねの方で
前がかすんでまったく見えない
拭いてもすぐしたたるから仕様がない
山桜の小路に重い身を運ぶ
このままもし倒れたら
死因は何になるのだらう
急性感冒
風邪に急性が認められるかは知らない
だが風邪を引いた原因は雨中を歩くといふ決断にあり
その断は途切れずに続く雨雲のせいであり
そもそも天気の変わりやすいこの季節に
折り畳み傘を忍ばせるのを忘却したわたしのせいだ
そしてその愚は生活に対する投げやりな気持ちから生じたものなので
死因は個人的な生に対する不真面目な態度に帰着した
わたしはめがねと顔の隙間から前を定めつつ
雨に降られれば去らざるを得ない身の上を案じた
路傍の小さな黄色い花がこちらを見ていた

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