蝶の夢

一羽の蝶が野原を舞ふ
とびはねる
おちる
緩急をつけたステップで
翻弄したかと思へば
羽をひらいて優雅にすべる
自由で
自在で
とらへどころがない

はられた水面に
遠くの山が
逆さに映る

とんでゐたのが
急に降下して
茂みに隠れる

何を探してゐるのだらうか
探しものが見つかったのだらうか
そこにあるのか
その緑なす草と
色あせた枯れ葉のあひだに

一羽の蝶が野原を舞ふ
長い長いさがしもの
どこに隠れてゐるのか
いつ見つかるのか
そもそもどこかにある物なのか
わからない疑問を抱へながら
蝶の体がふわりとはねる

la felicita
昨晩入った料理店の
メニューに書かれた文字が
頭に浮かんで消える
もしそれを探してゐるなら
それを知ってゐるといふことになる
あるいは
それを求めつつ
それが何かをもたづねてゐるなら
何のことはない
仕事の手を止めて
疲れた顔を遠くに向ける
年老いた男のやうに
夢を夢と知りつつ見続けて
言葉も情熱も見失ひ
慣れと忘れによって保たれた幸せに
薄いほほゑみを貼りつける
そんな街角の風景と
そんなに変らないといふことだらう

一羽の蝶が
野原を舞ふ



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