無言歌


きこえるだらうか
湖の暗い底より
ふくらみはなれ
流れなき水の中を
ただのぼってゆく
空気のあわの
みなもに届いて顔を出す
瞬間に消える
そのときのおと

疲れて足をとめた旅人の
すすけた耳にもし入るなら
あふれた涕をふいたあと
日が暮れて星になるまで
口を結んで見つめることだらう
みづうみのおくに
うかんだかげろふが
思ひ出の景色に形を変へて
ざわめく胸をおさへた手に
はやい鼓動が伝はるだらう
闇のとばりが降り
目を夜空に向け
虫のうたを聞きながら
終はるのを待つだらう
涕のすぢをほほにのこして
かわいたまなこをつむる
場違ひな声も聞こへない
胸はしづかにうちつづく
きこえるだらうか
湖の暗い底より
ふくらみはなれ
流れなき水の中を
ただのぼってゆく
空気のあわの
みなもに届いて顔を出す
刹那に消える
そのときのおとが
もしも星のあかりにうつされた
小さき胸に寄せるなら
言ふべきこともなく
波立たぬ湖面に
黒き瞳をそそぐだらう




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