春のなか

春の野原を散歩する
枯れ枝のやうだったこずゑが
芽吹きはじめる
足元を見れば小さなスミレ
ボケの赤い花が林を縁取る
灰色の草原は若草色に染まり
乾いた田んぼに水が入れられる
彼方に見える山々は
下の方から色づいてゆく
甘い香りがただようて
花を尋ねて映らない
黄色い蝶が舞ひ
鶯の調べは空に伝ふ

遅咲きの桜の根元には
白い二輪草が揺れてゐる
春が来たといふより
春はたけなはだ

たしかに
春は来てゐたのだ

昨日まで
わたしはどこを歩いてゐたのだらう
なにを見てゐたのだらう

さっき人に言はれるまで
木々の芽吹きも草の香りも
田んぼの水も鳥の声も
楽し気に飛び交ふ黄色い蝶蝶も
こころに映ってゐなかった

なるほど
もう春なのだ
そしてもうすぐ
夏になるのだらう

そのときこそは
風の音が気付かせてくれるに違ひない
冷たいからだを温めて
青い爪に血を通はせる
赤い光の
ほがらかな季節が来るのだよと


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