おもいで

思い出すのは
年少のころ
おもちゃの積木で
遊び相手のほほを押したら
鼻血が出て
先生に怒られたこと

思い出すのは
小学生のころ
クラスの歌をつくるのに
自分の歌詞が選ばれて
別に何とも思はなかったが
出来上がった歌の歌詞には
手が加えられていて
はるかによいものになっていたので
大人ってすごいと
感心したこと

思い出すのは
遊んでいた友達が
他校の生徒になぐられて
咳き込んで倒れたすぐとなりで
何も出来ずに固まって
立っていたこと

思い出すのは
学生時代
初めて書いた手紙を胸に
来ない人を
いつまでも待っていたこと

思い出すのは
母親の笑い顔
父親の呼ぶ声
従兄弟のいたずら
必ずお年玉を用意してくれてた
親戚のおじさん

けれどわたしが思い出したかったのは
これら平凡で穏やかな思い出ではなく
道のそこかしこで
目にしてきたもの
胸を締め付け目を泳がせて
おそらくは人生を少し狂わせた
忘れ難きものもの
むしろより平凡なのかもしれないが
それはあるときは灰色の羽もつ鳩であり
あるときは異臭を放って過ぎる中年婦人であり
生は明るいという感想がいかようにしても不可能にされて
暗いとめどない不幸を啓示され
一瞬にして満たされ説得され
反論する意思のかけらすら残されないまま
わたしは目を開いて
それらふとしたかたまりが
去って行く後ろ姿を
見つめ続けるしかない

思い出すのは
不愉快なこと
愉快なこと
嫌いなひと
好きなひと

思い出すのは
記憶
痛み
これでよかったのかという
漠とした
うたがい

思い出すのは
どんなこと
思い出すのは
音楽
どんな

思い出すのは

おもいだすのは




コメント

このブログの人気の投稿

二月二十四日 ねえ・・・

五月二十四日 ぐらたん

六月二十日 のぞみ